臨床医が外資系製薬企業に就職したのにあまり英語の出番がない理由とその解決策

外資系」製薬企業に就職すると、毎日英語を使って仕事をするものだと考える人が多いだろう。もし入社したら、多数のネイティブが参加するオンライン会議でプレゼンテーションしたり、英語でのメールやり取りやディスカッションを日々行うことになるのかと、不安半分・期待半分で胸を膨らませるはずだ。

僕自身もともとアメリカでの臨床留学を目指していたので、それなりに英語力を高める努力をしてきたし、短期留学やTOEFL等で形にもしてきた。企業への入社面接の際も英語力を積極的にアピールし、英語を使ってグローバルに活躍したいと思いながら製薬企業の門を叩いた。

最初はメディカルアフェアーズとして入社した。入社したら英語漬けの日々になるのかと思いきや、そうではなかった。英語を使う機会は確かにあるのだが、実務レベルで英語がバンバン飛び交うような状況ではない。しかし、上司や他のファンクションの一部の方は、英語でのコミュニケーションを日常的にしているようだった。そういった人たちは実務レベルでの英語力の必要性を語り、切迫して自身の英語力を高めようと努力しているようだった。なぜ同じ組織に所属していながらここまで英語への温度感が違うのか、僕にはわからなかった。

自分は結局、前職在職中には最後まで英語を使う場面はあまりなかった。

その後、他社の開発部へ転職(現職場)した。その結果、英語を使う機会が激増した。日常的にグローバルとの会議が組まれ、メールでも英語で重要なコミュニケーションを行う日々である。それはもちろん大変な事なのだが、憧れの「英語を使いこなしてグローバルに仕事する人」の仲間入りができたように感じ、非常に満足している。

なぜ自分は、前職ではあまり英語を使わなくて、今の職場に来てから急に英語を使うようになったのだろうか。

本記事では、外資系製薬企業でどうすれば英語を使えるようになるのかを解説してみたい。

 

英語は、英語を使う環境に行かないと使わない

序文に、自分が英語を使うようになるまでの経緯を記した。

今回の体験を通して痛感したのは「英語を使うかどうかは、自身の英語力によって決まるわけではなく、英語を使う役職・組織に所属するかどうかで決まる」という事実である。

実際、どれだけ英語力が高い人や意識的に勉強している人でも英語を使う環境にいなければ、その英語力を発揮することはない。逆に、英語が飛び交う環境の中に身を置く人だからと言って、必ずしも英語力が高くない人も大勢いる。

それまでの自分の考えでは「日々英語力を絶えず磨いている人であれば、そのうち英語を使う機会が自然に寄ってくる」と思っていた。

これは大きな勘違いで、あなたの英語力がどうであれ、英語を使う仕事をすれば英語を使うことになる。

英語が使いたいなら英語を使う環境に身を置かないといけないのだ。

 

国内で完結する仕事だと使わない

外資系製薬企業において、英語を使う機会が多い環境はどのようなものだろうか。

前提として、外資系製薬企業で英語を使うのは、基本的にはグローバル本部とのやり取りである。外資系製薬企業の場合、日本オフィスはあくまでグローバル組織の支社の一つであるが、そのような組織においてはプロジェクトの進め方としては2パターンある。一つ目は大まかな戦略がグローバル本部から指示されてそれを日本でどのように展開するか考えるパターン、二つ目は日本独自のプロジェクトに関してグローバルに相談や報告したりしながら進めるというパターンである。

例えば、メディカルアフェアーズは主に上市後の薬剤を担当し、国内の医療者を対象にして活動を行う。メディカルのプロジェクトは予算管理含め国内で完結することが多く、グローバル本社とはプロジェクトを進める上でそこまで密に連絡を取ることはない。もちろんグローバルアドボのように、グローバルからの依頼で実施するメディカル活動もあるのだが、全体の仕事の割合としては少ない。

対して、開発部が担当する治験は、グローバルレベルで実施するものがほぼ100%である。治験の内容や実施計画書はグローバル本社の担当者が作成し、治験に付随する各種マニュアルの作成や試験の進捗管理も含め、すべてグローバルが主担当となる。日本支社は、グローバルが決めた戦略をもとに、日本でどのように具体的に治験を実施するか、日本の施設のドクターたちと議論したり、英語文書を日本語訳したりして、日本がグローバル治験にスムーズに組み入れられるようにサポートしていく。これらのプロセスを進めていく各段階で、グローバルの担当者と密に連絡を取り、議論していくことになる。このようなやり取りは当然ながら英語で行う。

結果的に開発部では、日本国内で仕事していながら英語を頻繁に使うことになる。グローバル会議では、場合によっては日本からの要求をグローバルに認めさせないといけない緊張感のある状況も、結構な頻度で起こる。

そのようなシーンでは、真に英語力並びにコミュニケーション力が問われると言えるだろう。刺激的な英語バトルが堪能できる。

 

優秀なリーダーの下のいる限りあまり使わない

担当しているプロジェクトが、国内で完結するものの場合は英語はほぼ使わず、グローバル主導でそのメンバーの一員として参加している場合は英語の必要度は一気に高まると説明した。

それに加えてもう一つ重要なのが、自分の組織内でのポジションである。

メディカルであれ開発部であれ、程度の差こそあれ、要所要所でグローバルとのコミュニケーションが発生するのはどちらも同じである。重要なのは、多くの場合、直接グローバルとコミュニケーションをとるのはその部署のリーダーであるという点である。

臨床医が初めて製薬に転職して、いきなり部署のリーダーに就任することは稀である。ほとんどの場合、未経験者である元臨床医は日本人の上司の下につくことになる。こういった(我々のような)初めて臨床医から製薬に転職してきたような扱いの難しいメンバーを部下に持てるリーダーは概して優秀な人で、英語もペラペラである。こういった優秀な上司がグローバルとのコミュニケーションを行い、そこで決定したことを部下(自分含む)へ日本語で報告するという形で情報供されることになる。

つまり、製薬へ就職していきなり英語が必要になるケースはレアなのだ。

 

英語をあまり使わないポジションにいながら英語を使うようにするには

臨床医が外資系製薬企業へ行く場合「英語力はそこまで自信ないけど、それなりに勉強してきてるし、せっかく外資系企業に入ったのだから少しは挑戦してみたいな」と考える人が多いだろう。ただ、あなたの気持ちがどうであれ、先述のように、英語を使う部署や役職に就かないと、英語は使わない。

もしあなたが英語をあまり使わない部署に配属されていて、それでも英語を使いたいと思った場合、どうしたら良いだろうか。

選択肢としては、①昇進してリーダー格になる、②上司が少ない役職に異動する、③階層が浅い組織(mid-size pharm)へ転職する、というものがある。正直、どれもかなりハードルが高い。

一方で、部署や役職を変更せずに英語を使いたい場合は、どのような手段があるだろうか。自分は英語を使わない仕事をしていたとしても、自分の直属の上司や、少なくとも2つ上の上司は英語をバシバシ使いこなしているはずである。もし可能であれば、その上司に「グローバルとのコミュニケーションに積極的に関わりたい!」と伝えて、グローバル会議に同席させてもらえるようお願いするのは一案である。もし会議で有効な発言をすることができれば、類似の会議やコミュニケーションにも呼んでもらえるようになるかもしれない。

なかなか容易なことではないし、正直な話、僕も前職の時はそのようなアクティブな働きかけは全くできなかった。

しかし、英語の使用頻度は環境(状況)でほぼ決まるので、もし英語を使いたいなら環境を何とかして変えるしかないのも事実だ。

転職や異動、昇進以外で、何か有効なアイディアがあればぜひ教えてい欲しい。

 

英語を使うとテンションが上がる

自分は前職ではあまり英語を使う機会が無くて、そういう意味では悶々としていたのだが、それもやがて慣れてきて、1-2年経った頃は英語のことなど忘れてしまっていた

その後、今の職場に転職し、英語の使用頻度や必要性の程度が一気に増した。

もちろん英語が必要な役職であることを期待して転職した面もあるのだが、それでも最初はなかなか英語での有効なコミュニケーションが出来ず、かなり四苦八苦した。転職して半年以上経った今も、英語コミュニケーションには悪戦苦闘している日々ではあるのだが、この状況はとてもテンションが上がる。

イメージとしては、昔大切に磨き上げてきたけど最近はずっと使う機会が無くて倉庫の奥に押し込まれてほこりを被っている特別な武器(英語)を、やっと取り出して思いっきり振り回せるようになったと言えば伝わるだろうか。もちろん、ずっと手入れしていなかった武器なので、錆付いているしすぐには使い方を思い出せないのだが、それでもだんだんと手になじんでくる。昔、その武器で修練していた過去は消えないのだ。

外資系企業に勤めていて、日本に居ながら日常的に英語のコミュニケーションを行っているという状況は、臨床医であればほぼあり得ない。これは製薬企業勤めの大きな魅力であると思う。

本記事が、英語を使いたいけどなかなか使う機会がない人への参考になれば幸いである。

【臨床→製薬への転職】どのような会社のどのようなポジションにつくべきか

あなたは臨床医で、製薬企業への転職を検討している。

Linkedin経由で数名のリクルーターとコンタクトしたら、あっという間に彼らから数多くの企業の案件を紹介されることになる。外資と内資、ファイザーやノバルティスのようなメガファーマから、あまり名前を聞いたことのないマイナーな製薬企業まで、幅広い求人リストをくれるだろう。

所属部署に関しても、開発部とメディカルアフェアーズをメインとして、安全性部門から場合によっては事業部まで、実にバラエティ豊かだ。

しかしながら、臨床経験しかない医師が、このような求人リストの中から自身にフィットする案件を絞り込めむことは、かなり難しい。実際、自分もそうであった。

本記事では、臨床→製薬、製薬→製薬の2回の転職の経験をもとに、企業の特性による大まかな傾向や主な部署の特徴を紹介し、どのように候補先を絞ればよいのかを説明したい。

企業の絞り方

外資か内資か

自分は外資での経験しかないし、周りの知り合いも外資(またはTakeda)ばかりなので、外資の魅力について書いてみたい。

まず、外資系企業に入ると「外資系サラリーマン」の称号と生活が手に入る。多様なプロフェッショナル集団との協働、フレックスタイムやリモートワークに等の融通が効きやすい働き方、国内外でバリバリに活躍している人たちとの会議、クロスファンクショナルチームによるプロジェクトの遂行、グローバル本社との英語会議、高給(内資と比較して)、などである。もしあなたがこれらのキーワードに敏感に反応するようであれば、外資系企業一択である。

内資系の魅力としてよく聞くのは、内資の場合は本社勤務になるということである。外資の場合、日本のオフィスはあくまで支社の一つであり、基本的には本社の方針に従うことになる。しかし内資で本社に勤務している場合、自分の所属組織が方針の決定権をもつ。これは大きな違いである。

僕の場合は「外資系サラリーマン生活」へのあこがれが強かったのでこの点はあまり悩まなかった。

メガファーマ vs Mid-Size ファーマ

製薬業界は、基本的には米国市場を頂点とした、グローバル企業ばかりである。

俗にメガファーマと言われる会社は、ビジネスとしての規模が大きく、豊富なパイプライン(開発薬のラインナップのこと)を揃えており、従業員数も多い。大きくて体力のある組織の場合、それだけ社内での異動や昇進のチャンスが増えるかもしれない。

逆に、組織が大きいほどそれだけ業務や領域が細分化されていて、例えばメディカルアフェアーズの肺がんチームと言っても、抗がん剤チーム、免疫チェックポイントチーム、新薬チーム、のように細かく分かれていたりする。階層が深ければそれだけ経営陣やグローバル本社との距離も遠くなり、より歯車っぽい仕事が増える側面もある。

それでも、やはりメガファーマに在籍しているという安心感はとても大きい。特に、業界をよく知らない人や家人へ話すときに名の知れた企業だと、ウケは良い。

では逆に、Mid-sizeファーマと呼ばれるような、あまり大きくない製薬企業の魅力は何だろうか。

人員が少ないので、一人一人がバラエティのある業務を担うことになる。例えば、肺がんと胃がんとを一人で担当する、というような状態になる。専門性が深まらないともいえるかもしれないし、それだけ多くの幅広い経験が積めるとも言えるかもしれない。

また組織が小さくなる(階層が浅くなる)と、必然的にグローバル本社との距離が近くなる。そのため、英語でのコミュニケーションや会議が増える。メガファーマではDirector(部長)レベルでないと参加できないような会議でも、組織が小さくなれば比較的下っ端でもガシガシ参戦できる。これも大きな違いである。

ただ、企業の規模が小さくなれば、それだけグレーゾーンの仕事が生じやすい。自分のファンクションとしては本来やるべきではないorやりたくない仕事を振られる機会も増えるかもしれない。理想的な労働環境を自分でしっかりと確保する工夫が重要になる。

暫定的な結論ではあるが、初めての製薬企業への転職は、極力メジャーな企業へ行った方が良いと思う。特定の疾患領域や薬剤に強い思い入れがある場合を除き、初めての転職の時は企業内でのふるまい方や自分の向き不向きがわからない。そのため、より組織としての機能がしっかりしている大きな企業のほうが安心だろう。

 

部署及び役職の選び方

開発部

開発部で取り扱うのは、基本的には治験に関連する業務である。

グローバル本社が計画・立案した治験を、大学病院に代表される国内の研究病院と連携しながら、日本で実施することを目指す。治験を実施する科学的根拠を記述したり、試験のデータを分析し、PMDA等の関連当局と議論を重ねながら承認申請を目指す。少ない症例数で実施されるのPhase1試験から、NEJMやLancetに載るような大規模Phase3試験まで、各治験に関わることができる。

開発部の人材に求められる能力は、疾患及び薬に対する医学的な理解はもちろん、該当領域の臨床経験(あれば)、治験担当施設の医師とのコミュニケーション力、プロジェクトを取り仕切るマネジメント能力、グローバル本社と協同しながら仕事を進めていくための高い英語力などが必要になる。

開発部には、レギュラトリーアフェアーズ、プロジェクトマネージャー、薬理や非臨床、統計解析、メディカルライターなどのチームがある。開発部には、多くの医師が在籍しているし、開発部の要職はMDである製薬企業が多い。

 

メディカルディレクター

臨床開発のメディカルディレクターは、主に医師が就く役職である。主な仕事内容としては、日本の臨床環境を踏まえグローバル治験を日本でどのように実施していくかという開発計画の立案、治験に関連する各種書類の作成及びレビュー、治験実施中では治験実施施設の医師との密なコミュニケーション、申請書類の作成およびレビューなどが挙げられる。また、学会発表や論文執筆や、事業部やメディカル部と連携して、上市後の戦略へ科学的/医学的インプットも実施する。クロスファンクショナルチームにおいて、プロジェクトを成功へ導くリーダシップの発揮も期待されている。

臨床経験10年前後、企業経験5年以上、ビジネス上級レベルの英語力など、それなりの経験及びポテンシャルが求められる役職である。

 

メディカルアフェアーズ

メディカルアフェアーズでは、医師と医学的科学的な観点からのディスカッションを行い、疾患啓発や処方の適正化を図ろうという部署である。対象となる薬剤は主に上市後のものとなり、開発中の薬には積極的にはタッチしない。

メディカルアフェアーズの具体的な業務としては、領域をリードしている医師から最新の知見を得るための面談、市販後データ解析・論文誌筆、学会発表、患者向けの疾患啓蒙セミナーを企画、勉強会の援助などがある。その他ウェアラブルバイススマートフォンアプリなどに関わるなど、幅広い業務を行っているが、各社かなり差がある印象だ。

メディカルアフェアーズには、戦略部、MSL部(後述)、ME部(Medical Education医師向けの教育企画等の担当)、EG部(Evidence Generation。試験の計画立案、論文執筆や学会発表の作成等)、Digital部(ウェブサイトなど)などがある。

 

メディカルアドバイザー/戦略担当

メディカルアフェアーズの各チームの司令塔して、戦略を立てるのがメディカルアドバイザー(Therapetic Area Leadなどと呼ばれることもある)である。医師が製薬へ転職する場合、よく勧められるのがこの役職で、僕の前職もこれである。

メディカルアドバイザーは、医師が多いが、PhDの方も在籍している。

主な業務としては、上市後の薬剤とその関連領域に対して、MSLからのインサイト、学会発表や論文、臨床医とのコミュニケーション等を通して得た知見を収集・分析し、重要な医学的/問題点や、現状満たされていない課題(アンメットニーズ)を同定し、必要なメディカル活動を計画及び遂行することである。

自社でも積極的に学会発表や論文執筆などを通してエビデンスの創出及び発信を行う(EG部と別れていることもある)。自社でPhase 4試験を立案することもあり、臨床医と議論しより意義のあるスタディデザインを検討し、プロトコル執筆や各関係部署との調整を行う。

また、事業部や開発部ともメディカルアフェアーズの窓口として積極的に連携し、クロスファンクショナルチームにおいてリーダーシップを発揮することも重要な役割の一つである。

このように、メディカルアフェアーズ内ではかなり重要なポジションで、元MSLでエースだった人や、製薬企業歴20年のようなベテランの方などが就いている。元臨床医がMDだからという理由でいきなりこのポジションにつくと、求められている能力が全く間に合ってないので結構大変である。

 

MSL(Medical Science Liason)

MSLは、疾患領域の著名な医師との面談を通し、現在の医療現場のリアルな状況や課題、医師の問題意識などの情報を収集する、主に現場で活動する部隊である。元研究者やPhDを持っているアカデミックなバックグラウンドの人たちで構成されている。

最近では医師の最初の製薬キャリアとしてMSLで就職することも増えてきている。

元臨床医のMSLであれば、面談相手の医師もより話しやすいし、収集した情報の理解も臨床現場のことをよく知っているので、より適切に行うことが出来る。同僚のMSLに、医師との接し方をアドバイスすることもあるだろう。

このように元臨床医のMSLは、MSLとしてのポテンシャルがかなり高いと考えられる。だが一方で、これまでは臨床医同士である意味同等でディスカッション出来ていた相手に対して、製薬企業のMSLとして接すると、いきなり自分の扱いが下になってしまう面は確かにある。人によっては、そのギャップがなかなか耐え難く、MSLはしんどいという感覚を持つ人も居るようではある。

ちなみに元臨床医のMSLは、周りのMSLと比較して給与が高く(下手したら上司より高い場合もある)、MSL活動以外の価値提供が求められることが多いようである。

 

企業や役職で待遇(年収)はどうかわるか

これも気になる点だろうが、実はあまり変わらないようである。

基本的には臨床医時代の給与(基本給+時間外+バイト代)を参考に、そこから100-110%程度でオファーが出ることが一般的である。そのため、年収1100万円のメディカルアドバイザーや、年収1500万のMSLが存在することのなる。

この給与の計算方法は、どのような企業のどのような役職だとしても、製薬企業へ元臨床医の肩書を利用して就職する限り、大きな差はないと考えてよさそうだ。

もし可能であれば、臨床医時代に頑張ってバイトして給与の合計額を水増ししておくのも一考である。

 

結局、就職の決め手は人の縁

製薬企業である限り、どの企業だとしても、似たような組織構成になっているし、元が臨床医であれば似たような役職に就くことになる。そのため、求人案件を選ぶポイントは、①その企業の特性(注力領域、パイプラインの数、社風など)と、②直属の上司になる人との相性の2点で選ぶことになる。

特に、②はかなり重要で、同じ役職だとしても、尊敬できる上司で前向きに仕事に取り組む環境と、上司とあまりうまくいっていない環境では、仕事環境は天と地ほど差がつく。

自分を振り返ってみると、初めての製薬企業への就職の際も、2社目の製薬企業へ転職した際も、面接官(のちの上司になる人)との相性で決めていた。どちらの場合も面接で「なんかすごい人だな、面白い人だな」と直感した。実際、入社後も初回面談時の印象がひっくり返ることはなかった。

どれだけ名のある企業だとしても、面接のときに「どうもあまりしっくりこないな」となるのであれば、そのオファーは避けたほうが賢明かもしれない。

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これまで長々と書いてきたが、製薬への初めての就職の際は、わからないことだらけだし、そもそも企業では働くこと自体が自分に合うのかもわからないのが通常である。

いろいろ思うところはあるだろうが、それでも「自分はこれまで臨床でそれなりに頑張ってきたし、もし製薬がうまくいかなくても、臨床に戻ればよいだけだ!だから出来る限りやってみよう」と考え、思い切って飛び込んでほしい。

きっと、これまでの臨床医の人生とは、また違った世界が見えるはずだ。

【臨床医→製薬企業】製薬企業が臨床医に求める条件とは

日本にある製薬企業内では、内資・外資含め、社内で働いている医師が存在する。数は多くないが、主に開発部やメディカルアフェアーズなど、サイエンスを扱う部署に所属している。

あまり知られていないことだが、製薬企業による医師向けの求人は常に公開されている。各会社のウェブサイトや転職サイトを閲覧したり、転職エージェントとコンタクトを取れば、すぐに情報を集めることが出来る。

公開されている求人を見ると、臨床経験〇〇年以上、十分な医学的知識がある、コミュニケーション力がある、TOIEC800点以上が目安・・・、などといった条件が並んでいる。初めての転職の場合、どの求人も難易度が高いように思えるし、どの条件が大事なのかよくわからない。自分はこの条件は満たしていないけど可能性はあるのか?等の様々な疑問が浮かぶことになる。

本記事では、臨床医から製薬企業への転職を検討している方々に向けて、これまでの私の経験(臨床→製薬、製薬→製薬への転職)、知り合いの製薬企業医師からの意見、転職エージェントの情報などを総合し、製薬企業がどのような医師を求めているのかを説明したい。

 

製薬企業が臨床医に求める条件

製薬企業は臨床医の「知識だけ」は求めていない

そもそも製薬企業側から見て、医師を採用するメリットはどこにあるのだろう。まず思いつくのが、医学や科学に対する知識だろう。しかし、知識面での貢献はかなり限定的であるというのが僕の実感だ。

医師が採用される部署は、開発部やメディカルアフェアーズのような主にサイエンスを取り扱う部署である。製薬企業の中でこういった部署に所属している人は、元研究者だったりPh.Dを持っていたりと、アカデミックなバックグランドの人が多い。そして自社製品が対象とする疾患に関しては、とてつもなく詳しい。最新の文献やガイドライン、論文を隅々まで読んでいることはもちろんだが、多くの学会にも出席しているし、公開/未公開の研究や、各大学の人事の状況などにも精通している。

長年その疾患だけを担当し続けている化石のような人もいて、こういう人は専門医にも負けない知識を持っている。人脈もすごくて、例えば有名大学の大ベテラン教授と若いころから20年以上の知り合いで常に情報交換してきた、といった医局の生き証人のような人も存在する。臨床医はいくら専門を持っていると言っても単一の疾患ばかり見ているわけにもいかないし、勉強だけしているわけにもいかない。

そのため、知識だけで製薬企業内で活躍するのは結構厳しいのである。

 

医師しか提供できない「臨床経験」の持つ価値

では、製薬企業が求める医師の価値、「臨床経験」とは何だろうか。

それは、実際に臨床医として現場に立ってきたという経験そのものである。現場で診療業務にあたっていたからこそ言える意見は、製薬企業にとって何物にも代えがたい価値を持つ。臨床医は、医師が普段どのようなことを考えてどのように仕事をしているのか、患者と医師がどのように付き合い治療が進んでいくのか、といったことを、身をもって体験している。これは大きな武器だ。

仮にその領域の知識が入社時にそこまでなかったとしても、現場を知っているからこそ、知識のキャッチアップも早い。新しく担当する領域の先生とのコミュニケーションも、非医師の方よりスムーズに行うことが出来る。自分の専門外の領域でも、担当患者の相談を通してその科の医師と交流があったり、研修医の時にその科をローテ―トしていただけでも、わかることはかなりある。

企業に入社後、現場の医師と話すときも、「元医者」の登場に対して「やっと話の分かるやつが来た」といった反応をされることもある。このように、元臨床医は、医療現場の「ノリ」や「空気」を知っている。これは圧倒的なアドバンテージである。

一般人では知り得ない「臨床現場のリアル」を語り、さらに現在第一線で戦っている先生方と対等にディスカッションするには、ある程度現場にどっぷり使った経験が必要である。具体的には、最低5年以上、できれば10年弱の臨床経験が求められている。ちなみに僕は5.5年目であった。

ただ、医師4年目ぐらいでも転職に成功している知り合いもいるし、実際はケースバイケースな印象ではある。確実に言えるのは、もしこの記事を読んでくれているあなたが医学生だったり初期研修医だった場合は、今は製薬企業のことなんか忘れて目の前の臨床業務に全力投球しなさい、ということである。

 

何科の医師が求められているのか

一般的には、その製薬企業が注力している疾患領域と被っている科が評価されやすい。例えば、血液内科医が白血病の治療薬を持つ企業を目指したり、膠原病科医がリウマチの抗体製剤を開発薬に持っている企業に申し込むなどだ。

現在、世界の製薬企業が最も力を入れているのが抗がん剤で、売り上げも大きいし、開発予算も多く投入されている。そのため、各専門科でがんを担当していたり、腫瘍内科医の先生も、非常に評価は高いと考えられる。自分の専門性の裏付けとして、各種専門医を取得しておくのも、有効である。

専門科が会社の注力領域と完全に同じでない場合はどうだろう。内科医全般や、総合診療医、ER医あたりは、「全身を診れる医師」としての評価を受けることが出来るので、少なくとも不利にはならない。また意外?だが、麻酔科も「全身が診れる」ということで、比較的就職しやすいらしい。

逆にあまり評価が高くないのが、手技が多いマイナー科や、外科である。もともと内科的な考えが乏しいし、切った張ったのクリアな世界観の方々であり、おまけにプライドが高い人が多いので、なかなか企業という組織になじめないというのが理由らしい。あとは神経内科や精神科も、薬を使う医師ではあるが、独特の価値観考え方を持っている人が多いというイメージが強いらしく、あまりウケはよくないと聞く。放射線科や病理も先述の「臨床経験」が少なく、あまり魅力的な候補者とは映らないらしい。

以上が、製薬企業が求める診療科の特徴である。

しかしながら、製薬企業への就職を検討する段階で既に特定の科にける臨床経験は積まれているはずで、就職時に変更できるものでもない。むしろ、自分の診療経験がどのように製薬企業に価値をもたらすことが出来るか、という説明文をブラッシュアップすることを頑張ったほうが生産的であろう。

なお、あなたが今どの科を専攻しているにせよ、一般内科や救急外来の経験があれば、それはしっかりと職務経歴書±CVに記載しておこう。このような経験は「全身が診れますよ」アピールにつながる。

 

アカデミックな実績

先述したが製薬企業内で医師が所属する主な部署は、開発部、メディカルアフェアーズ、安全性部門などの、医学(科学)を取り扱う部門である。

開発部では治験、メディカルアフェアーズでは自社製品に対する医師主導試験や企業主導試験、安全性部門では市販後調査などを担当する。どれも、特定の切り口で患者のデータを収集しそれを解析して発表することが主な業務である。そのため、医学情報へのリテラシーはもちろんのこと、試験実施計画書、統計計画書、インフォームドコンセントフォーム、当局への申請書類などの改修や執筆、英語版の翻訳のチェックなどが主要なアウトプットとなる。

このような業務は、これまでの臨床医人生を通して、学会発表や論文執筆、他施設共同試験への立案や参加経験といったアカデミックな経験があると理解が早し、業務に取り組みやすい。そのため、アカデミックな実績をたくさん持っている医師の評価は高くなる。Ph.DやMPHを持っていると、さらに箔がつく。

また、事前にアカデミックな活動に注力しておくことは、自分が製薬企業へフィットするのかを測る物差しにもなる。もしあなたが製薬企業への転職を考えているのに、臨床にしか興味が無くて、アカデミックな活動に対してすぐに蕁麻疹が出てしまうタイプであるならば、今一度キャリアプランを再検討したほうが良いだろう。

ちなみに転職時の僕は、原著論文1、学会発表10個ぐらいだった。

 

リーダーシップの経験

製薬企業では、いくら希少な医師といっても、ほかの職種との間に上下関係はなくて、基本的には対等である。

企業組織では、多様なスペシャリストとディスカッションを重ね、よりよい成果を出せるようにチームで議論していくことが必要がある。周りと協力し、場合によっては「そこをなんとかお願いします」と頭を下げるシーンも出てくる。

臨床医は、自分で方針を判断して一方的に指示を出して業務を進めることが多い。自分は元が総合内科医で臨床医としても他科へお願いするシーンが多かったのですぐに適応できたが、専門科医や外科医などのオラオラ系はなかなか切り替えが難しいのではないだろうか。こういった根回し力がないと、大きなプロジェクトを進めることはできないし、日々の業務にストレスを感じてしまう。

製薬企業の採用担当は、候補者の医師が「企業組織への適性があるか」を非常に気にしている。それは、臨床医から製薬企業へ転職した人の実に1/3が、1-2年以内に企業を辞めて臨床へ戻っているという事実(エージェント情報)からも、重要性が分かるはずだ。

製薬業界では、臨床医からの初めての転職よりも、製薬→製薬への2回目以降の転職の方が、よりよい条件(給与、勤務日数、リモートの条件など)を提示されることが多い。これは中途の場合候補者が「製薬企業でそれなりに実績を出しており、企業で働くことへの最低限への適性がある」ことをファクトとして示せるからだ。

さて、前置きが長くなった。

ここで伝えたい点は、もしあなたが臨床医の時に、チームの一員として組織改革や業務改善に取り組んだり、病院組織横断的な活動を立案・実行していたり、若手を率いて教育を行うなどの活動を行っていた場合、それは積極的にアピールしたほうが良いということだ。こういったリーダーシップ(必ずしも自身がリーダーである必要はない)を持っている臨床医は、企業への適性がある可能性が高く、評価されやすい傾向にある。

僕の場合、専門性やアカデミック活動は大したことなかったが、このリーダーシップの実績と後述の英語力の2点で、ポテンシャルを評価してもらったと思っている。


英語力はnice to have。もし得意なら強力な武器になる

外資系製薬企業では、マネージャークラスの人は、相当の英語力をもつのが普通である。ネイティブが複数参加している会議で効果的な発言をしたり、英語のメールで正確なコミュニケーションが取れたりするレベルである。だいたいTOIECで800点ぐらいではないだろうか。

外資の場合日本支社でも、役員レベルになると外国人が増えてくるし、会議も重要な会議であればあるほど、英語になることが多い。このような組織で自分をアピールし評価されるには、英語でのパフォーマンスが重要となる。自分の業績結果の文章も英語で書く必要があり、その内容によって昇給やグローバル本社への短期/長期の転勤が決まったりすることもある。英語が出来ないと、このようなチャンスを逃すことになる印象である。

もしあなたが帰国子女だったり留学経験があったりする場合は、TOIEC/TOEFLの結果等も交え、自分の英語力をどんどんにアピールしよう。逆にそこまで英語力に自信がない場合は、特に触れないほうが良いかもしれない。なお、英語論文の執筆や海外学会でのプレゼンの実績があれば、それだけで「英語力は必要最低限はある」と評価されるという人も居た。

余談だが、自分の知り合いのMDであまり英語が得意ではない方は、入社後に英語力の改善を指示されて、社費でマンツーマン英語トレーニングコースに入れてもらっていると言っていた。会社が英語力改善のために、お金を出してくれたり業務を調整してくれるところからも、それだけ重要視されていることが分かるだろう。

ちなみに、英語力がどれだけできても入社後に英語を使うかというのは、自分の役職と部署によりけりであり、実務レベルで必要かというのはまた別の議論である。

 

住んでいる場所が関東か関西(かなり重要)

雇用の条件に、居住地が関東(関西)でオフィスへ2時間以に出勤できる、という物理的な制約を設けている会社が結構ある。自分の場合は神奈川在住でオフィスが東京だったのでほとんど問題にはならなかったが、地方都市からリモート勤務を希望する臨床医もそれなりの数が居て、ある意味一番厳しい条件であったりする。

多くの製薬企業では、コロナウイルスの影響もあり、現在は週2-3日のみのオフィス出勤や、完全リモートでの勤務を認めている会社が多い。しかし初めての臨床医からの転職の場合、そもそもリモート勤務で成果を上げた実績が無い。製薬企業側からしてみれば、もともと現場オンリーの業務である臨床しか行っていなかった候補者が、就職後に初めて100%リモートで勤務しますというのは、非常にリスクが高いと捉えられるようだ。

逆に言えば、例えば最初の半年~1年は単身赴任してオフィスの近くに住み、実績が認められてきた段階で、本来の居住地からリモート勤務に切り替える、などという戦略も考えられる。

この辺りは会社間での違いや状況により大きくことなるので、転職活動の際によくエージェントや就職先と相談してほしい。

 

まとめ

いかがだっただろうか。

製薬企業が求めている医師とは「ちゃんと臨床に取り組んでいて、アカデミックな活動も頑張っていて、プライドが無駄に高くなくて周りを巻き込むコミュニケーションがあり、英語もある程度しゃべれる、都市部に住んでいる医師」である。

割と常識的な条件で、まじめに頑張っている人であれば、それなりにたくさんの人が該当するような気もする。

是非、自身のキャリアの選択肢に、製薬企業への転職を加えることを検討してみてほしい。

【若手医師のキャリアパス】一般病院、大学病院、開業医、製薬企業MDの特徴を比較してみた

若手医師のキャリアとしては、以前は出身大学の興味のある教室に入局し、そこから派遣されたり留学したりしながらキャリアを形成、一生を終えるというのが一般的であった。最近では、市中病院でガッツリと臨床に取り組み、40-50歳の段階で院内で副院長などのポジションを目指すか、地域で開業するというルートも王道になりつつある。

しかし、一般病院の勤務医といっても、外科や循環器のようにほとんど病院に住み込みで働くものから、外来オンリーの内科やマイナー科の様に、9時5時でゆるく働く勤務医まで大きく幅がある。他には、医師10年目ぐらいで開業する人もいるし、自分のように外資系製薬企業に勤める医師も存在する。

このように、医師のキャリアパスは多様化している。それにもかかわらず、多くの若手医師は自分の所属する狭いコミュニティの中でしか参考になるキャリアを知ることが出来ず、結局はその職場における先輩諸氏と似たような医師人生を歩むことがほとんどだ。若くして開業したり、企業に就職するような、マイナーなキャリアを歩んでいる人から、詳しく話を聞く機会は非常に乏しい。

本記事では、私の知人で興味深いキャリアを歩んでいる医師の方々の協力のもと、医師の働き方の分類と、それぞれの働き方特徴について比較検討してみたい。

本比較が、人生に悩める若手医師のキャリア検討の一条になれば望外の喜びである。

  • 医師のキャリア分類
  • 調査法とその結果
    • 一般人からの印象
    • 業務の困難さ
    • 給与(時給)
    • 感謝され度合
    • アカデミック
    • Global(英語)
    • ワークライフバラス(WLB)
  • Discussion
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【臨床医→製薬への転職】外資系製薬企業に飛び込んだ元内科医が製薬企業に向いていない人の特徴をまとめてみた

総合内科医から製薬企業に飛び込み、早くも3年が経った。その間に一度転職も経験しており、部署もメディカルアフェアーズから開発へと移った。その結果、ある程度この業界で生きていくということに関して、自分なりの見方が出来てきたように思う。

また最近は、臨床医の知り合いから「製薬企業どう?」や「自分が製薬企業に向いているのかわからない」など、相談を受ける機会も増えてきた。

本記事では、製薬企業に向いていない臨床医の特徴をまとめてみた。ここから、製薬企業で生きるとはどういうことなのか、理解の一助になれば幸いだ。

早速見ていこう。

  • 生身の患者を相手にしていないと一ミリも燃えない人
  • プロジェクトの結果が短期間にわかりやすい形で出ないと気持ち悪い人
  • 他職種と対等なディスカッションが無理で、一方的に指示を出したい人
  • 逆に自分の意見を持つことが恐ろしく苦痛な人
  • 英語にマジで触れたくない人
  • 新しいことを常に勉強するのが嫌な人
  • 勤務医やめるなら年収3000万とかにすぐなれないと納得できない人
  • 親とか親戚に「お医者様で立派ですね」って言ってもらえないと死ぬ人
  • まとめ:一人の仕事人として市場に晒される生き方
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