臨床医が外資系製薬企業に就職したのにあまり英語の出番がない理由とその解決策

外資系」製薬企業に就職すると、毎日英語を使って仕事をするものだと考える人が多いだろう。もし入社したら、多数のネイティブが参加するオンライン会議でプレゼンテーションしたり、英語でのメールやり取りやディスカッションを日々行うことになるのかと、不安半分・期待半分で胸を膨らませるはずだ。

僕自身もともとアメリカでの臨床留学を目指していたので、それなりに英語力を高める努力をしてきたし、短期留学やTOEFL等で形にもしてきた。企業への入社面接の際も英語力を積極的にアピールし、英語を使ってグローバルに活躍したいと思いながら製薬企業の門を叩いた。

最初はメディカルアフェアーズとして入社した。入社したら英語漬けの日々になるのかと思いきや、そうではなかった。英語を使う機会は確かにあるのだが、実務レベルで英語がバンバン飛び交うような状況ではない。しかし、上司や他のファンクションの一部の方は、英語でのコミュニケーションを日常的にしているようだった。そういった人たちは実務レベルでの英語力の必要性を語り、切迫して自身の英語力を高めようと努力しているようだった。なぜ同じ組織に所属していながらここまで英語への温度感が違うのか、僕にはわからなかった。

自分は結局、前職在職中には最後まで英語を使う場面はあまりなかった。

その後、他社の開発部へ転職(現職場)した。その結果、英語を使う機会が激増した。日常的にグローバルとの会議が組まれ、メールでも英語で重要なコミュニケーションを行う日々である。それはもちろん大変な事なのだが、憧れの「英語を使いこなしてグローバルに仕事する人」の仲間入りができたように感じ、非常に満足している。

なぜ自分は、前職ではあまり英語を使わなくて、今の職場に来てから急に英語を使うようになったのだろうか。

本記事では、外資系製薬企業でどうすれば英語を使えるようになるのかを解説してみたい。

 

英語は、英語を使う環境に行かないと使わない

序文に、自分が英語を使うようになるまでの経緯を記した。

今回の体験を通して痛感したのは「英語を使うかどうかは、自身の英語力によって決まるわけではなく、英語を使う役職・組織に所属するかどうかで決まる」という事実である。

実際、どれだけ英語力が高い人や意識的に勉強している人でも英語を使う環境にいなければ、その英語力を発揮することはない。逆に、英語が飛び交う環境の中に身を置く人だからと言って、必ずしも英語力が高くない人も大勢いる。

それまでの自分の考えでは「日々英語力を絶えず磨いている人であれば、そのうち英語を使う機会が自然に寄ってくる」と思っていた。

これは大きな勘違いで、あなたの英語力がどうであれ、英語を使う仕事をすれば英語を使うことになる。

英語が使いたいなら英語を使う環境に身を置かないといけないのだ。

 

国内で完結する仕事だと使わない

外資系製薬企業において、英語を使う機会が多い環境はどのようなものだろうか。

前提として、外資系製薬企業で英語を使うのは、基本的にはグローバル本部とのやり取りである。外資系製薬企業の場合、日本オフィスはあくまでグローバル組織の支社の一つであるが、そのような組織においてはプロジェクトの進め方としては2パターンある。一つ目は大まかな戦略がグローバル本部から指示されてそれを日本でどのように展開するか考えるパターン、二つ目は日本独自のプロジェクトに関してグローバルに相談や報告したりしながら進めるというパターンである。

例えば、メディカルアフェアーズは主に上市後の薬剤を担当し、国内の医療者を対象にして活動を行う。メディカルのプロジェクトは予算管理含め国内で完結することが多く、グローバル本社とはプロジェクトを進める上でそこまで密に連絡を取ることはない。もちろんグローバルアドボのように、グローバルからの依頼で実施するメディカル活動もあるのだが、全体の仕事の割合としては少ない。

対して、開発部が担当する治験は、グローバルレベルで実施するものがほぼ100%である。治験の内容や実施計画書はグローバル本社の担当者が作成し、治験に付随する各種マニュアルの作成や試験の進捗管理も含め、すべてグローバルが主担当となる。日本支社は、グローバルが決めた戦略をもとに、日本でどのように具体的に治験を実施するか、日本の施設のドクターたちと議論したり、英語文書を日本語訳したりして、日本がグローバル治験にスムーズに組み入れられるようにサポートしていく。これらのプロセスを進めていく各段階で、グローバルの担当者と密に連絡を取り、議論していくことになる。このようなやり取りは当然ながら英語で行う。

結果的に開発部では、日本国内で仕事していながら英語を頻繁に使うことになる。グローバル会議では、場合によっては日本からの要求をグローバルに認めさせないといけない緊張感のある状況も、結構な頻度で起こる。

そのようなシーンでは、真に英語力並びにコミュニケーション力が問われると言えるだろう。刺激的な英語バトルが堪能できる。

 

優秀なリーダーの下のいる限りあまり使わない

担当しているプロジェクトが、国内で完結するものの場合は英語はほぼ使わず、グローバル主導でそのメンバーの一員として参加している場合は英語の必要度は一気に高まると説明した。

それに加えてもう一つ重要なのが、自分の組織内でのポジションである。

メディカルであれ開発部であれ、程度の差こそあれ、要所要所でグローバルとのコミュニケーションが発生するのはどちらも同じである。重要なのは、多くの場合、直接グローバルとコミュニケーションをとるのはその部署のリーダーであるという点である。

臨床医が初めて製薬に転職して、いきなり部署のリーダーに就任することは稀である。ほとんどの場合、未経験者である元臨床医は日本人の上司の下につくことになる。こういった(我々のような)初めて臨床医から製薬に転職してきたような扱いの難しいメンバーを部下に持てるリーダーは概して優秀な人で、英語もペラペラである。こういった優秀な上司がグローバルとのコミュニケーションを行い、そこで決定したことを部下(自分含む)へ日本語で報告するという形で情報供されることになる。

つまり、製薬へ就職していきなり英語が必要になるケースはレアなのだ。

 

英語をあまり使わないポジションにいながら英語を使うようにするには

臨床医が外資系製薬企業へ行く場合「英語力はそこまで自信ないけど、それなりに勉強してきてるし、せっかく外資系企業に入ったのだから少しは挑戦してみたいな」と考える人が多いだろう。ただ、あなたの気持ちがどうであれ、先述のように、英語を使う部署や役職に就かないと、英語は使わない。

もしあなたが英語をあまり使わない部署に配属されていて、それでも英語を使いたいと思った場合、どうしたら良いだろうか。

選択肢としては、①昇進してリーダー格になる、②上司が少ない役職に異動する、③階層が浅い組織(mid-size pharm)へ転職する、というものがある。正直、どれもかなりハードルが高い。

一方で、部署や役職を変更せずに英語を使いたい場合は、どのような手段があるだろうか。自分は英語を使わない仕事をしていたとしても、自分の直属の上司や、少なくとも2つ上の上司は英語をバシバシ使いこなしているはずである。もし可能であれば、その上司に「グローバルとのコミュニケーションに積極的に関わりたい!」と伝えて、グローバル会議に同席させてもらえるようお願いするのは一案である。もし会議で有効な発言をすることができれば、類似の会議やコミュニケーションにも呼んでもらえるようになるかもしれない。

なかなか容易なことではないし、正直な話、僕も前職の時はそのようなアクティブな働きかけは全くできなかった。

しかし、英語の使用頻度は環境(状況)でほぼ決まるので、もし英語を使いたいなら環境を何とかして変えるしかないのも事実だ。

転職や異動、昇進以外で、何か有効なアイディアがあればぜひ教えてい欲しい。

 

英語を使うとテンションが上がる

自分は前職ではあまり英語を使う機会が無くて、そういう意味では悶々としていたのだが、それもやがて慣れてきて、1-2年経った頃は英語のことなど忘れてしまっていた

その後、今の職場に転職し、英語の使用頻度や必要性の程度が一気に増した。

もちろん英語が必要な役職であることを期待して転職した面もあるのだが、それでも最初はなかなか英語での有効なコミュニケーションが出来ず、かなり四苦八苦した。転職して半年以上経った今も、英語コミュニケーションには悪戦苦闘している日々ではあるのだが、この状況はとてもテンションが上がる。

イメージとしては、昔大切に磨き上げてきたけど最近はずっと使う機会が無くて倉庫の奥に押し込まれてほこりを被っている特別な武器(英語)を、やっと取り出して思いっきり振り回せるようになったと言えば伝わるだろうか。もちろん、ずっと手入れしていなかった武器なので、錆付いているしすぐには使い方を思い出せないのだが、それでもだんだんと手になじんでくる。昔、その武器で修練していた過去は消えないのだ。

外資系企業に勤めていて、日本に居ながら日常的に英語のコミュニケーションを行っているという状況は、臨床医であればほぼあり得ない。これは製薬企業勤めの大きな魅力であると思う。

本記事が、英語を使いたいけどなかなか使う機会がない人への参考になれば幸いである。