【臨床医→製薬への転職】外資系製薬企業に飛び込んだ元内科医が製薬企業に向いていない人の特徴をまとめてみた

総合内科医から製薬企業に飛び込み、早くも3年が経った。その間に一度転職も経験しており、部署もメディカルアフェアーズから開発へと移った。その結果、ある程度この業界で生きていくということに関して、自分なりの見方が出来てきたように思う。

また最近は、臨床医の知り合いから「製薬企業どう?」や「自分が製薬企業に向いているのかわからない」など、相談を受ける機会も増えてきた。

本記事では、製薬企業に向いていない臨床医の特徴をまとめてみた。ここから、製薬企業で生きるとはどういうことなのか、理解の一助になれば幸いだ。

早速見ていこう。

生身の患者を相手にしていないと一ミリも燃えない人

これはイメージしやすいだろう。臨床医は内科や外科などのメジャー科であれ、眼科や耳鼻科などのマイナー科であれ、ほとんどの科で生身の相手(患者)に対して仕事をする。それに対し、製薬企業でかかわる人間は、同僚、グローバル本部の人、顧客の医師等に限られ、患者とかかわることはほとんどない。

そのため、臨床医の時のように「先生本当にありがとうございます」「先生みたいな良い医者に出会えてうれしかった」といった言葉を投げかけられることもない。臨床医であるときはあまりに日常的なことなので気づいていなかったが、臨床の現場を離れてみて、そのありがたさやモチベーションへの寄与の大きさを実感した。

臨床医ほど、直接的に感謝される仕事はそうはない。このような報酬は何物にも代えがたく、失いたくない臨床医は大勢いるのではないだろうか。

 

プロジェクトの結果が短期間にわかりやすい形で出ないと気持ち悪い人

臨床医の場合「プロジェクト」の単位は、一人一人の患者を治療することだ。患者と初めて会いそこから治療の結果が出るまでは、外来患者か入院患者か、あとは専門科にもよるが、多くの場合に数日~数か月という単位で判明する。そして「治るor死んでしまう」など、誰の目にもわかりやすい形で結果が示される。

しかし、製薬企業の場合、プロジェクトのタイムラインが非常に長い。製薬企業の本業である薬の開発においては、Phase 1試験から数えてもPhase2, 3と進み、承認されるまで10年ぐらいかかり、その前の段階まで入れると10-20年単位という気の遠くなるプロジェクトがほとんどだ。また、MSLでは顕著かもしれないが、なかなかわかりやすいKPIがなく、成果を数値で示す尺度がはっきりしない。

自分も、切った張ったの業界に身を置き、明確な結果で常にフィードバックを受けるのが生業の臨床医だったので、この変化には当初は戸惑った。期間が長くて結果がわかりにくいプロジェクトに対してモチベーションを保ち続けるのは、案外難しいと思う時期も正直あった。

今では、小さなマイルストン達成や時間軸の違うプロジェクトを複数かけもちすることで、常にやりがいを感じられるように自ら工夫しているところだ。

 

他職種と対等なディスカッションが無理で、一方的に指示を出したい人

臨床医は、自分で方針を判断して一方的に指示を出して業務をサクサク進めるシーンが多い。しかし企業では、いくら希少な医師といっても、ほかの職種との間に上下関係はなくて、対等である。企業という組織では、多様なスペシャリストとディスカッションを重ね、よりよい成果を出せるようにチームで議論していくことが必要がある。

周りと協力し、場合によっては「教えてください、助けてください」と頭を下げるシーンも出てくる。自分は元が総合内科医で臨床医としても他科へお願いするシーンが多かったのですんなり適応できたが、専門科医や外科医などのオラオラ系はなかなか切り替えが難しいのではないだろうか。

しかし、こういった根回し力がないと、大きなプロジェクトを進めることはできない。

 

逆に自分の意見を持つことが恐ろしく苦痛な人

会議などで、自分の意見を持っていない、または表明しないで黙っていると、すぐに空気扱いされて放置プレイの憂き目に合う。

臨床医の時は、カンファでは決められたことを定型的にしゃべれば乗り切れるし特に問題にもならなかったが、企業では答えがない課題に対して、自分ならではの観点で適切なコメントができるように常に意識・行動してなければならない。

日々臨床で自分なりの視点を持つように意識していない臨床医は、180度姿勢を変えていかないと、企業ではプレゼンスを発揮できないだろう。

 

英語にマジで触れたくない人

主要な製薬企業はグローバル企業で、その本社の多くはアメリカやヨーロッパにある。そのため、正式な資料の作成は英語であることがほとんどだし、部署によってはネイティブ達の輪に入って適切な発言をして日本チームの存在感を示す必要もある。

一定以上のレベルで活躍したいのであれば、英語力は必須だ。入社の段階ではそこまでのレベルは求められないようだが、英語力が低い人は入社後に英語力の改善を指示されるケースがほとんどなようだ。

もちろん、論文などのScientificな英語の読み書きが出来ることは今更言うまでもない。

 

新しいことを常に勉強するのが嫌な人

臨床医の多くは一つの領域に専門を絞り、その周辺の勉強だけをしていればよい。

しかし製薬企業では、つねに主力商品や注力エリアが変化するので、常に新しい領域の勉強や情報収集を行い続けなければならない。

若手のころの古い知識だけで何年も業務を続けている臨床医が時々いるが、そのようなマインドでは企業では通用しないだろう(もちろん臨床医としてもアウトだが。)

 

勤務医やめるなら年収3000万とかにすぐなれないと納得できない人

良く勘違いされているが、臨床医から製薬企業に入っても、給与は爆発的には増えない。もともとの収入(基本+時間外)×110-120%といったところではないだろうか。

製薬企業はワークライフバランスが激しくホワイトなので、これでも時給に換算すればかなり増えているのだが、多くの臨床医は製薬企業に入ったらいきなり給与が2倍、3倍になると勘違いしている。そんな甘い話はない。

わざわざ勤務医やめても給与が大して変わらない(手取りが)となると、このキャリアにあまり魅力を感じなくなる臨床医もいるかもしれない。

 

親とか親戚に「お医者様で立派ですね」って言ってもらえないと死ぬ人

臨床医の社会的ウケの良さは別格だ。

いくらエリートサラリーマンで年収1500万円の高給取りだったとしても「お医者様」の社会的評価には到底及ばない。だからこそ、多くの臨床医が(比較的)薄給でもやりがいや自尊心を見出して続けているのだと思う。

これが、臨床医から製薬企業に転職すると、「お医者様」評価を失ってしまう。これは大きな痛手だ。高校生の時から親の期待や世間体をやる気に変えてきた大多数の真面目な臨床医には、到底受け入れられないだろう。

 

まとめ:一人の仕事人として市場に晒される生き方

いかがだったろうか。

ここに記したこと以外にも、臨床医が製薬企業に入ることで失ってしまうことはたくさんある。もしかしたら一気に製薬企業転職へのハードルが高くなったかもしれない。

しかし一人の社会人として企業という組織に所属し、資本主義の市場で勝負をするというのはなかなかにエキサイティングな経験である。

臨床医の時には得られなかった形でやりがいを見出すことが出来る人もいるかもしれない。

自分もその一人である。