ときどきは臨床現場に戻ることにしました

週1での外来業務を再開しました。

僕は半年前まで某市中病院にて、内科医として勤務していた。そこから製薬企業へ転職し、現在はサラリーマンをしている。製薬企業へ転職した医師の多くは医師新卒ではなく、ある程度経験年数を積んだ人が多い。企業に就職した場合、臨床から完全に離れてしまう医師も居るが、月に数回外来業務を行って、臨床医としても働き続けている方も多い。 

僕の場合転職してからしばらくは、完全に臨床はストップしていた。サラリーマン業と臨床医を掛け持ちできるのかが不明であったのがその理由だ。現在就職してから約半年を過ごし、だいたいの勝手というかノリがわかってきた。また業務の中で、臨床の現場ではどうなのか?という視点が求められるシーンが時折あることも理解した。そのような瞬間こそまさに医師が企業で求められている経験にほかならない。自分もそのような場面では、自分の経を元に意見を述べさせてもらうのだが、その際に臨床経験が「昔話化」していることに気づいたのだ。フレッシュな臨床の感覚を失わないためにも、ある程度医師として現場に立ち続けるメリットはあると思った。

純粋に臨床は面白い、ということもある。サラリーマンは、数名で何週間もかけて大きなプロジェクトをこなしていくが、医師は毎回の外来にて連続して患者を診察し、推論を行い、プランを提案する。まれに他の医師や専門科へ相談することもあるが、基本的には自分ひとりで解決する案件が多い。リズムよく患者を診ていくことはそれなりの技術を要するし、普段の仕事とは違う刺激になるので良いリフレッシュになる。なお、就職先の条件により規程されるが、臨床を行った分は追加で給料が発生する。副業は多くの企業で禁止されているが、製薬企業内での医師による臨床業務に関しては、許容されているケースが多いようだ。

さて自分の場合は内科医なので、一般的な内科外来が基本的な臨床業務である。検診異常、生活習慣病、一般的な風邪、心疾患スクリーニング、原因不明の発熱の精査、などの患者が主な担当だ。だいたいは似たような症例だが、その中で稀な症例を見つけたり、マネジメントが難しい病気に出会ったりすると、知的好奇心が刺激される。外来はただ話を聞いて薬を出しているだけのように見えるかもしれないが、それはそれで奥が深いのである。

ところで、純粋に外来だけやるのは僕自身は苦手である。苦手というか、外来だけでは寂しくなってくる。週一勤務とは言っても、それ以外の業務も行いたいと考えた。

僕がないかい時代に力を入れていたのは、若手医師への教育、組織マネジメント、労務管理、広報活動などである。あまり医師の業務っぽくないかもしれないが、できる人が少ないので価値があると思ったし何より周りへの影響力が大きいのでやりがいを感じていた。

医師業で何より重要であると思うのは、若手医師への教育である。自分一人が優秀になってもその効果は限定的であり、多くの研修医を立派にすることの方がはるかに価値がある。知識面の教育はもちろんだが、仕事に対する姿勢や患者案への接し方なども教育対象である。そのためにはレクチャーによる一方向の教育だけでなく、一緒に患者さんを診察したり、ともに病状説明を行うなど「背中で語る」系の業務も多く含まれる。

この手の教育においては、教育者が部下から信頼されていないと効果が著しく下がる。また、教育者側のモチベーションにも影響がある。時折しか会わない付き合いの薄い部下に、そこまで肩入れして教育を施そうと思うのだろうか。

週1勤務は、なかなか難しい。普通に外来業務を行うだけであればぜんぜん難しくはないのだが、ただの外来業務に加え、その上で何か価値を提供するのが難しい。それでも僕は、ただ外来をこなすだけの勤務はしたくない。それは僕自身の医師としての矜持である。

困難なことだから挑戦する価値がある。本業に支障が出ない範囲でチャレンジを続けてみようと思う。