つまらない仕事をして金が稼げても虚しい

金が簡単に儲かるけれどつまらない仕事って、世の中にはあんまりなさそうなんだけど、医療界にはたくさんある。実際、自分もそのような甘い汁をすすってきた面もある。特に勉強のために時間がほしいけど留学に必要な資金もほしい、というような場面では非常に助かった。病院はその特性上、24時間365日、医師を用意しておかないといけない。暇な病院であれば、医師が特にやることがないのにも関わらず、医師を配置しておかないといけないのである。そんな病院だと、医師としてはただ病院の中にいるだけでバイト代がもらえることにある。このような業務は当然ながらとても楽である。俗に寝当直と呼ばれ、一晩院内で寝るだけで4-8万円ぐらいもらえる。

他にも、楽な医師業務は色々ある。例えば、軽症患者しか見ない外来。地域で「あそこは軽い症状の時に行く病院」などというように認識されていれば、占めたもの。基本的には風邪とか、慢性的な腰痛など、対応が画一的で済む(要するに薬を、ほいって出すだけで良い)。重症な疾患を疑ったら、すぐに高度医療施設へ紹介状を書くか、救急車を呼んで病院間搬送を行えば良い。さらに言えば、自分が重症かどうかは多くの場合患者さん自身にもわかる。そういった患者さんは、最初から大きな病院に行ったり救急車を呼んだりしてくれるので、そのような業務は極めて少ない。

他には、コンタクトレンズの問診や美容整形の問診。コンタクトレンズ処方の前のチェックや、顔にレーザーを当てたりする前に健康かどうかチェックする業務である。前者は眼科専門医が求人条件にある場合がほとんどなのだが、仕事内容自体は、ちょちょっとチェックするだけである(眼科医からの情報。僕は内科医なのでできません)。美容整形の問診なんかは、医師免許だけあれば良い、みたいな求人が多いので、相当ハードルが低いらしい。

もちろん、楽な外来/当直と言っても、安定していると思った患者さんが急変したり、軽症だと思っていた患者さんが重症であった場合など、医師としての技量が試されるシーンに遭遇する可能性はある。それでも職場を選べば、修羅場に遭遇する確率は、修羅場メインの病院と比べれば、100倍ぐらい差がある。それで給料に100倍差があるかというと、実際には一緒ぐらいなのが実に興味深い点だ。

ちなみに、自分もいくつか実際にやってみて確信めいているのだが、このような楽な業務や当直をやっても、医師としての能力は全く上がらない。医師の能力は、目の前の患者さんの病気に悩みながら調べものをしたり、重症患者さんを前に冷や汗かいた場数に左右されると思っている。座学で身につけられるのは3割ぐらいで、あとは実践あるのみである。 

このようなバイトや楽な業務ばっかりしていれば、楽に稼げてハッピーじゃないの?そう思われる方も多いだろう。楽に稼げるのはその通りだし、実際そのような働き方をしている医師にも何人か会ったことがある。結論から言うと、そういう医者は例外なくカスである。自分がなんとかしなくては、この人が死んじゃう!というような修羅場から逃げ続けているので、当然であろう。バイトの掛け持ちばかりし、向上心も無く、責任感も知識もないゴミのような医師に出くわすことがある。ブラックジャックや大門Xに出てくるような、優秀だが組織に属していない人、みたいな人はとてつもなく稀である(自分は会ったことがない)。

なぜこのような理不尽なことがまかり通っているのか。理由は、何でも需給が支配している、という当たり前の法則である。田舎であれば、楽で割の良い仕事であっても、担い手がいなくて募集側はとても困っている。こうなると、医者なら誰でも良い!となるケースが多い。昔を知る医師から言わせると、これでもネット求人が発達し、楽だけど時給の高い仕事に応募が殺到し、逆のパターンは応募が少なくなったことで、ある程度は適正価格に近づいている感があるらしいけれど。

 

僕自身がこういった業務を一通りやってみて言えることは、ダラダラ一人で過ごし誰からも注意されず緊張感もなく成長もできない仕事は、とてつもなく虚しいということだ。尊敬できる先輩、頼れる同僚、元気な部下。その様や人たちと切磋琢磨しながらメリハリをもって仕事をしないと、人生は輝かない。僕自身がこのような仕事を、人生の中心に置くことは、今後も無いだろう。

逆に、こういう楽な仕事/バイトは、人生のセイフティネットとして捉えればとてつもなく価値がある。何か大きなことにチャレンジしたくて、その間の日銭がほしい時。自分の親を介護しないといけなくなってフルタイムで働けなくなり、お金に困った時。バーンアウトしてガチな仕事は一時的にできなくなったが、生活を維持したい時。そのような「特例」時には、医師免許は類稀な効力を発揮してくれる。それは事実である。

僕は、僕にしかできなさそうなことをやりたい。厳密に世の中で僕だけとまでは行かないが、少なくともその所属組織では、替えがきかない存在になりたいと思う。自分にしか出せない価値を出したいと思ってる。

そしてそれは、誰もが一緒なんだと信じている。