「レベル1に落ちるのが怖くて魔法戦士になれるか」

自分が尊敬する古賀洋吉さん。

彼の有名な記事に、ドラクエ人生論がある。

愛の日記 | ドラクエ人生論

レベル20になったら転職するだろ。レベル1に落ちるのが怖くて魔法戦士になれるか。

 

ドラクエに詳しくない人に説明すると、ドラクエではいくつかの「職業」が選択できる。職業を選択(この場合は戦士)すると、戦士としてレベル1からのスタートとなる。戦士レベルを上げると、それに伴い戦士としてのスキルを身につけられる。戦士レベル20になると、戦士としてMaxの習熟度となり以降は戦士としてのスキルは上昇しない。職業は他にも魔法使い、武闘家、盗賊、僧侶なんかがあり、どれも同じようにレベルアップしていく。

その中でも、複数の職業をマスターすると初めて選択可能になる職業がある。「魔法戦士」は、「戦士」と「魔法使い」の2つの職業をレベルMaxまで上げることで選択可能になる。ハードルが高い分だけ、魔法戦士のスキルの効果は絶大である。魔法戦士になるためには、戦士として最強レベルになった後、一度戦士をやめて魔法使いに「転職する」というプロセスが必要だ。戦士として幅を利かせていた日々から、一気に駆け出し魔法使いレベル1にランクダウンするのだ。その落差を乗り越えられない奴に、魔法戦士になる資格はない。

臨床医で過ごしていた頃の僕は、臨床医としては駆け出し以上ベテラン未満ぐらいのレベルだったが、それなりに自分のスキルの自信を持っていた。そして企業に入ると、驚くほど何もできない自分がいた。自分は完全にサラリーマン魔法使いの初心者であり、魔法使いとしての知識・スキルが一切ない。他の魔法使いたちが何を話しているのかわからないし、そもそもを何をしようとしているのかがわからない。周りは魔法使いとしてスキルを磨き続けてきた猛者ばかりなので、相対的には自分は雑魚キャラである。臨床医戦士だった時代は自分より格上の戦士はそんなに多くなかったが、今は間違いなく下っ端だ。それでも、魔法戦士になるために、日々奮戦している。

環境/職業チェンジによる相対的レベルダウン。これを乗り越えられるかどうかは、これまでの同様な経験があるかどうかに依存する。

自分の場合考えてみると、小学生の頃は米国の片田舎に住んでいて、こころ優しい人達に囲まれてのほほんと過ごしてきた。中学生で日本に帰国し、私立の中学校に入った。そこでは当然のようにイジメや先輩からのいびりが横行し、ぬるま湯から転校した僕には、さながら北斗の拳のような世紀末に思えた。

自分は生意気なのに背が低かったため、結構な頻度でボコされていた。それでも「体が大きいのは個人の努力量と関係ないのに、ただ身体がデカイだけでドヤっているコイツらは何なのか。俺のほうが本来なら格上だ。」と強がっていた。イジメというよりは、ヤキをいれらたという方が近いかもしれない。そんな日々も、自分の背が一気に伸びて全て解決した。身体面で同等になれば、あとは知能により優劣がつくため、僕の立ち位置はだいぶ上がった。

僕は大学生の頃、部活の部長や勉強会のリーダーをしていた。俗に言う意識高い系の学生である。初期研修医として社会人になったら、すぐに活躍出来るものだと思っていた(馬鹿ですいません)。実際に現場に出てみたら、自分は圧倒的レベル1であった。臨床現場は、学生の頃とは全く違うルールで運営されえおり、培ってきたスキルですぐに活躍できるほど甘い環境ではなかった。自分はこの世で最も使えない研修医なのではないか?と思い、毎日うなだれていた。それでも「早く一人前になりたい」と、とりあえずは言われたことをコツコツとこなし出来ることの範囲を増やしていった。やがて周りからも認められ、活躍できる場面も出てきた。

 

キャリアアップを目的とした転職を検討するような人は、大きなビジョンや情熱を持っている。そうでもなければ、転職という大きなハードルを乗り越えられない。活躍している自分、大きなプロジェクトを動かしている自分。そのような理想を描いていて、新分野に飛び込むことが多い。そして実際に転職すると何も出来ない自分がいる。その落差は結構しんどい。

この現実から目を逸らし、魔法使いの森に来たのに戦士として出来ることばかりやってる人がいる。自分が(魔法使い)レベル1であることを認められず、戦士としての仕事を探す日々。自尊心は守られるかもしれないが、当然魔法使いとしてのレベルは上がらず、スキルも身につかない。それではいつまでたっても魔法戦士にはなれないのだ。レベル1である自分は、コツコツと低レベルなことから着手するしか無いのだ。

つらい日々で、自分を支えてくれるもの。それは魔法戦士を目指した最初の情熱以外には無い。なんのために自分は戦士キャリアをやめたのか?大きなゴールを達成するためだ。君は今はレベル1だが、戦士として成功した実績もある。完全なる0ではないんだ。

飛び級はない、レベル1,レベル2、レベル3…と着実に段階を踏んでいこう。