臨床医が血迷って企業への転職を決意したとき、どのように候補を絞るのか

臨床医から企業への転職を検討したとき、どの企業を選べば良いのだろうか。これは自分も散々悩んだ。決めていくプロセスの中で、いくつか普遍的に使えそうな切り口があったので、ここに記す。


製薬企業

全般的な話

一般的に転職エージェントが提案してくる企業群である。内資であれば、武田薬品、アステラス、第一三共など、外資であればロシュ、ファイザー、ノバルティスなどである。それぞれのエージェントは、別々の企業へコネクションを持っている。この中からどうやって決めれば良いのだろうか。

企業の業績や強みはググったりすればすぐにわかる。それ以上のソフト面に関しては、面談に足を運んで直接確認するしか無い。取り扱っている薬の種類で検討するのも良いだろう。僕は、特定の疾患領域に格別強い思い入れがなかったので、そういう観点では検討せず、面談に出てきた人の印象で決めてしまった。それで全然後悔はしていない。

 

部署はどこになる?

医者が転職することが多い部署としては、開発R&D、安全性Safety、メディカルアフェアーズ部、である。その他にも、ビジネスユニットや法務、人事、経営企画部などの、企業として一般的に存在している部署もある。ただ多くの場合エージェントからは、開発などのサイエンスを取り扱う部署を勧められるだろう。

 

内資vs外資
次に、その企業が内資(日本の企業)なのか、外資(外国の企業)なのか、という観点である。外資は海外本社の日本支部に勤務するが、内資だと日本の本社に務めるケースが多い。これがどういう意味を持つかと言うと、例えば外資では、国内の治験終了間際になってグローバル本社の意向で開発中止が決定され、自分はよく事情がわからないまま治験協力施設に頭を下げて回る、というシーンが起こる。内資でも同様のことはあるだろうが、同じ社内なので、まだ腑に落ちやすいと考えられる。

武田薬品なんかもCEOは外国人だが、全体の割合としては日本人が多い。外資では、仕事でのオフィシャル書類は基本的には語であり、上司も偉くなるに従って外国人が増えてくるので、英語力はかなり必要である。逆にグローバルな環境で活躍したい人からすれば、断然外資に行くべきだろう。


自分の専門性が関連している企業の方が良いのか

血液内科医が、抗がん剤に強みをもつ企業を選ぶ。リウマチ科医が抗体製剤に強い企業に就職する、などのパターンである。しかし、製薬企業がその領域から撤退する可能性は常にある。また、薬には独占販売契約期間という寿命(8-10年)があり、そのタイミングで企業はリソースの投入を大幅に減らす(ジェネリックが参入し、頑張っても売上が絶対下がるため)。そのため、自分のお気に入りの薬を扱っている企業に就職しても、全然興味のない領域の担当になってしまうリスクは常にある。

このような前提を考えると、あまり薬の領域を限定して就職しないほうが良いような気がするが、製薬企業の注力領域が変わるタイミングで他の企業に転職するという選択肢もあるので、一概に駄目とは言えない。

専門医やその分野の大家を採用する場合、候補者の数が少ないのともともとの給料が高いので、高額のオファーとなるケースが多く、1800-2500万円のオファーもあるとのことである。

 

領域を定めずに採用された場合は?

入社したあとに任意の領域に携わるというパターンである。製薬企業はだいたい3-5個の注力領域を持っており、普通はそれのどれかに配属される。自分の得意分野に少しでも関わりのある領域にする、という考えが一般的だろうが、得意の領域が落ち目(売上が落ちており企業として力を入れていない)という状況もありえる。その場合は「医者としての経験は全然関係ないけどビジネス的にビッグウェーブが来ている領域」に飛び込んだ方が、サラリーマン的には成長が早いし昇進しやすいのかもしれない。これはもう上司と相談してくださいって感じですね。

 

 

製薬企業ではない、医療系企業 

CRO、SMO

治験や臨床研究の際に、製薬企業からの依頼を受けて、治験対象施設の医師とコンタクトを取る、治験データの入力システムを構築、データ集積、などを代行して行う。製薬企業の下請けだが、かなりのサイエンスが求められる。ちなみに、実際にデータを入力するのはSMOのCRCという人たちであり、CROの下請けである。とてもややこしい。

 

医療系ベンチャー

MEDLEY、メドピア、M3など。エージェント使う転職は少なく、Wantedly(転職プラットフォーム。企業に直接コンタクトが取れる)などから転職案件を探すことが多い。企業としての規模が小さいので、すぐに役に立つ能力がないと、なかなか活躍するのは難しそうである。ただ医師でも企業や役員をやっている人も多い。

僕もいくつか面談させていただいたが、ふわっとした動機の人を何年もかけて育てる、というような職場ではなく、ピンポイントで特定のスキルや知識を持つ人を採用している雰囲気であった。

 

以上簡単ではあるが、星の数ほどある製薬企業から、自分にフィットする企業の選び方を概説させていただいた。参考になれば幸いである。