快適だと感じたら、挑戦が足りていないと心得よ

2018年、僕はチーフレジデントという、若手医師の管理者のようなポジションについていた。とてもやりがいがあって、楽しい業務だった。それが終わり、今後のことを漠然と考えた。これから僕はどこへ向かえば良いのだろうか。

 

「仕事が快適だなと感じたとき、挑戦が足りていないと考えなさい」自分の職場の偉い人の言葉である。

サッカーの本田圭佑が日本にいないのは「日本は僕にとって快適すぎるんです」というのも有名だ。

仕事が、不愉快、めんどくさい、無駄、やりたくないことをやらされている。そのような「日常的な不満」は自分の努力で職場と交渉し、どんどん潰すべきだろう。上司と相談して、極力自分にとって無用な負担だと思えられることは少なくする。逆に、自分にとって良い(と思われる)負荷には、逃げずに正面から取り組むべきで、そこに成長がある。日常レベルで不満を減らし、求めている負荷を増やす。自分のパフォーマンスを最大化するために、常に自分と向き合い、どうすれば自分が輝けるか考え続ける必要がある。自分の職場をやりがいのある場にするための努力も、労働者の責務だろう。

しかしそれでも、どうしても変えられないことがある。

例えば、収入だ。

1つ目は、その人の持っている職種/職能に対するマーケットバリュー(需要と供給)で決まる。内科勤務医、外科医、開業医、雇われ院長、営業、マーケティング、法務、などの給料は、職場が違ってもだいたい似通ってくる。職業/職能がレアでかつ需要が大きければ、給料は高い。

2つ目が、業界の構造である。たくさんの人数や多くの設備投資が必要なのに売上が少ない業界(製造業など)と、少ない人数で少ない設備投資なのに売上が多い業界(金融業界など)の差である。市場構造である程度人件費(給料)が決まる。

3つ目が、置かれた環境での相対的な成功度合いである。同期の中で一番優秀になれば、それだけ待遇は良くなる。

重要なのは、どの職業/職能か、(どの業界でどの会社か)により、将来における年収が自動的に決まってしまうということだ。成功の下限と上限が決まってしまうのである。自分の置かれている職場環境の年収や特徴が、似たような職場であればだいたい同じになるのには、ちゃんとした理由がある。

問題は、それに「似通った特徴に」自分が納得できない時だ。商業柄どうしても解決出来ない負担や、どのように頑張っても得られないリターンを求める場合。それが転職を検討するべき時なのだろう。

 

【勤務医の特徴】

給料 :年功序列+時間外労働である(優秀かどうかで優劣がつかない)

役職 :年功序列である

対象 :BtoCであり、仕事相手が素人(患者)である(仕事人vs仕事人ではない)

内容 :クリエイティビティよりも正確性が求められる

国際性:基本地域に根ざした仕事。グローバルな仕事ではない

リスク:不祥事でも起こさなければクビにならない(大きなリターンもない)

臨床医というのは、非常に守られて安定した仕事である。医者キャリアを考えると、一番難しいのは医学部に入学することであり、それ以降はノーリスクだ。医学部に入ってさえしまえば、基本的に言われたことを律儀に遂行しているだけで、卒業できるし、安定した一生が送れる可能性が高い。メインとなる競争は「名誉」の争奪戦であり、給料の取り合いではない。

 

【サッカー選手】

給料 :パフォーマンスで決まる(年功序列X、役職X)

相手 :同レベルのサッカー選手である

国際性:海外チームにもいつでも行ける

リスク:怪我したりパフォーマンスが下がれば、クビになる

このような仕事は、そのリスクと引き換えに、若い頃からものすごくい脚光を浴びるし、成功すれば桁違いの注目を浴びることになる。ハイリスク・ハイリターンである。

 

上記のようなことが気になりすぎたのが、2018年だ。

自分の求める特徴を持つ環境は、ワクワクがあって、ある程度リスクがあって、国際的な仕事。このまま頑張っていても、このような環境には決して行けない、これはもう思い切って臨床を離れないといけないのではないか?そんな想いから、異業界、異業種を、意識し始めた。

つまり転職を検討し始めたのである。